肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、病気がかなり進行するまで自覚症状が出にくいのが特徴です。しかし、一度悪くなってしまうと回復が難しい場合もあり、特に「肝炎」から「肝硬変」へと進行すると、命に関わる重篤な状態になることもあります。ここでは、肝炎と肝硬変について、その原因、症状、そして最新の治療や予防についてわかりやすく解説します。
肝炎とは?
肝炎とは、肝臓に炎症が起きている状態を指します。肝臓の細胞が壊れて炎症が続くと、肝臓の働きが悪くなったり、線維(せんい)という硬い組織が増えてしまったりします。
肝炎の主な原因
肝炎には様々な原因がありますが、大きく分けると以下の3つが挙げられます。
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ウイルス性肝炎:
- B型肝炎ウイルス (HBV): 血液や体液を介して感染します。母子感染や性的接触、輸血(現在は厳重に検査されています)などが原因となります。多くの場合は自然に治りますが、一部が慢性化し、肝硬変や肝がんに進展する可能性があります。
- C型肝炎ウイルス (HCV): 主に血液を介して感染します。以前は輸血による感染が多かったですが、現在は厳重な検査が行われています。B型肝炎と同様に慢性化しやすく、肝硬変や肝がんの原因となります。
- その他、A型肝炎ウイルス(水や食べ物から感染)、E型肝炎ウイルス(豚肉などの生食から感染)などもありますが、これらは慢性化することは稀です。
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アルコール性肝炎:
- お酒の飲みすぎが原因で、肝臓に炎症が起きる状態です。初期は脂肪肝として現れ、さらに飲み続けると肝炎へと進行し、肝硬変に至ることもあります。
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非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH):
- お酒をほとんど飲まないのに、脂肪肝から肝炎を起こしている状態です。肥満、糖尿病、脂質異常症(高コレステロール血症など)といった生活習慣病と深く関連しています。近年、NASHから肝硬変や肝がんになるケースが増加しており、注目されています。
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自己免疫性肝炎:
- 自分の免疫が肝臓の細胞を攻撃してしまう病気です。女性に多く見られます。
肝炎の症状
肝炎の初期段階では、ほとんど症状が出ないことが多いです。進行すると、風邪のようなだるさ、食欲不振、吐き気、黄疸(皮膚や目の白い部分が黄色くなる)、尿が茶色くなるなどの症状が現れることがあります。しかし、症状が出てからでは病気がかなり進んでいる場合が多いので、定期的な健康診断での肝機能検査が非常に重要です。
肝硬変とは?
肝炎が長期間続き、肝臓の細胞が繰り返し壊れたり再生したりするうちに、肝臓が硬くなってしまった状態を「肝硬変」といいます。肝臓が硬くなると、本来の機能が失われ、様々な合併症を引き起こします。一度肝硬変になってしまうと、元の健康な肝臓に戻ることは難しいとされています。
肝硬変の主な症状と合併症
肝硬変には、肝臓の機能がまだ保たれている「代償期」と、機能が低下して様々な症状が出る「非代償期」があります。
- 代償期: 自覚症状がほとんどないか、あっても軽いだるさや食欲不振程度です。この時期に発見し、進行を食い止めることが重要です。
- 非代償期: 肝機能が著しく低下し、以下のような重篤な合併症が現れます。
- 黄疸: 肝臓で処理しきれない色素が体にたまり、皮膚や白目が黄色くなります。
- 腹水・むくみ: 体の水分調整がうまくいかなくなり、お腹に水がたまったり、手足がむくんだりします。
- 肝性脳症: 肝臓で解毒できない有害物質が脳に運ばれ、意識障害や認知機能の低下などが起こります。
- 食道胃静脈瘤(しょくどういじょうみゃくりゅう): 肝臓が硬いため、血液の流れが滞り、食道や胃の血管がこぶのように膨らみます。破裂すると大量出血を起こし、命に関わることがあります。
- 肝がん: 肝硬変になると、肝がんを発症するリスクが非常に高くなります。
肝炎・肝硬変の治療と予防
治療
- ウイルス性肝炎: B型・C型肝炎ウイルスに対しては、優れた抗ウイルス薬が開発されており、ウイルスを排除したり、増殖を抑えたりすることで、肝炎の進行を止めることが可能になっています。特にC型肝炎は、飲み薬でほぼ完全に治せるようになりました。
- アルコール性肝炎: 禁酒が最も重要です。
- NASH: 肥満の解消、糖尿病や脂質異常症の改善など、生活習慣の改善が中心となります。薬物療法も研究が進められています。
- 肝硬変: 肝硬変そのものを直接治す薬はまだ少ないですが、原因となっている肝炎の治療や、合併症(腹水、静脈瘤、肝性脳症など)に対する治療が行われます。場合によっては、肝移植が検討されることもあります。
- 最新の治療: 近年、再生医療(iPS細胞を使った肝臓の細胞移植など)や、肝臓の線維化を抑える新しい薬の研究が進められており、将来的に肝硬変を根本的に治療できる可能性も出てきています。
予防
肝炎や肝硬変の予防には、以下の点が重要です。
- 肝炎ウイルス検査: B型・C型肝炎ウイルスに感染しているかどうかの検査を受け、もし感染していれば早期に治療を受けることが大切です。B型肝炎ワクチンも有効です。
- 適度な飲酒: お酒の飲みすぎは肝臓に大きな負担をかけます。休肝日を設け、適量を守りましょう。
- バランスの取れた食事: 食べすぎや偏った食事は脂肪肝の原因となります。野菜やタンパク質をバランスよく摂り、高カロリー・高脂肪な食事は控えめにしましょう。
- 適度な運動: 肥満を解消し、NASHの予防・改善につながります。
- 定期的な健康診断: 肝臓は症状が出にくい臓器なので、定期的に肝機能検査を受け、異常があれば早めに医療機関を受診することが重要です。
肝臓の病気は、早期発見・早期治療が非常に大切です。健康な肝臓を維持するためにも、日頃から生活習慣に気をつけ、定期的な健康チェックを心がけましょう。